
人間型ロボットの開発が、話題になっている。一昔前、ようやく歩き始めたロボットが、今ではオーケストラの指揮をしたり、自分でトランペットを吹く芸達者も現れた。いかにも機械、といったギクシャクした動きが修正されて、手足の動きが滑らかになった。トランペットの音階を吹くための、微妙な唇の調節までできるようになったのだから驚きである。だが、それほど進化しても、ロボットはロボットの動きでしかない。人間様の域にはまだまだ及ばないのだ。
数年前、野球の練習をしていて転倒、肩を強打した。診察結果は右鎖骨骨折。右肩から金属のボルトを3本入れて骨を固定する手術を受け、利き腕を三角巾で吊る生活を余儀なくされた。幸い術後は順調で、約1カ月半後には、骨もくっつき、ボルトを抜くことができた。
さあ、元の生活に戻れるぞ、と思ったのは大間違い。実は、それからが悪戦苦闘の日々だった。右腕が肩から上に痛くて上がらない。何かの拍子で腕が体の後ろに引っ張られたとたん、電気が走るような痛みが刺した。たった1カ月半、腕を使わなかっただけなのに、すっかり筋肉は衰え、関節はさび付いて、それこそロボット状態になった。宇宙開発が始まったばかりのころ、旧ソ連の宇宙飛行士が無重力空間で長期間生活して地球に戻ったら、筋力がすっかりなくなって歩くこともできなかったというエピソードを思い出した。
元に戻すためにはリハビリしかない。痛い腕をゆっくり持ち上げては、ほぐす。その連続で腕が「昔」を思い出す。リハビリを続けながら、私たちが普段、ごく当たり前にやっている
動作が、いかに芸術的な「作品」であるか、とい
うことを教えられた。電車の吊り革につかまる、という簡単なことでも、筋肉や腱、関節など数多くの「部品」が実に精密な動きを連係して行っている。上下の単純な動きだけではない。微妙なひねりが必要なのだ。ひたすらリハビリに励んで、腕はやっと元通りになった。
しかし、そんな痛い思いをして知ったはずの「ありがたみ」も、元気になるとすっかり忘れている。これもまた、人間――。
(「ハットの待合室」編集室)
※「あるオーストラリア物語」は休みました。
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